この図から、1つの要素があっても他の要素がないと、犯罪に対して脆弱になることがわかります。犯罪抑止に必要な要素を踏まえ、効果的な対策を考え出すことが重要です。
先の公園の例で、公園のさまざまな地点について領域性・監視性のハード的・ソフト的要素の高低を比較・判断し、理解を深めましょう。
区画性は領域性のハード的要素で、空間を区切ることによって犯罪者を領域内に侵入させないようにする性質です。
区画性が高ければ、犯罪者は標的に接近しにくくなります。
空間を区切る方法はさまざまです。フェンス、ゲート(門)、ガードパイプ、チェーンスタンド、パーティションなどで、物理的に分かりやすく空間を区切ることができます。物理的に空間を区切ることで、そこは入りにくい空間になります。
囲いのない公園は、どこからでも入れるので区画性が低い空間です。
犯罪者は自分にとって都合の良いところから標的に接近しようとします。フェンスで周囲を囲まれた公園は、犯罪者には入りにくい空間になります。
なわばり意識は領域性のソフト的要素です。自分たちの領域の中には犯罪者を入れさせない、という意識です。
住宅地で防犯ポスターや防犯看板を掲示し防犯パトロールを行うのも、なわばり意識を明示するものです。子どもの見守り活動や民間交番も、なわばり意識の表明です。
学校では、登下校時に職員が校門の横に立って児童・生徒を見守ります。これも、なわばり意識を示す行為です。校門に「関係者意外の立ち入りを禁じます」といった掲示をすることも、なわばり意識を示します。
なわばり意識の強い場所では、犯罪者は対象への接近をためらいます。
最近では、コンサート会場の入り口で警備員が手荷物検査を行うことが珍しくありません。会場の区画性を明確にするとともに、なわばり意識を示すものです。
空港の保安検査場も航空機に犯罪者を近づけないための区画性と、なわばり意識を強く示しています。施設の入り口に警備員を配置し受付で貴重させるのも、なわばり意識を示します。
なわばり意識の強い場所では、その領域を守ろうとする意志を感じさせ、対象への接近をあきらめさせようとします。
なわばり意識を見えるように示すことが、防犯の上で有効です。
視認性は監視性のハード的要素で、犯罪者や犯罪行為の見えやすさのことです。
フェンスで囲まれた公園は見えやすく、視認性が高い場所です。
繁茂する樹木やコンクリートの壁に囲まれた公園は見えにくく、視認性の低い場所です。
視認性を高めることで、犯罪を抑止する力は高まります。
視認性を高めるための方法はさまざまです。
街路灯を設置すると夜間も明るくなり、視認性が高まります。防犯カメラを設置するのも、視認性を高める方法のひとつです。店舗に設置された凸面鏡も、視認性を高めます。
カメラ付きのインターホンも、訪問者を見えやすくするツールであり視認性を高めます。
当事者意識は監視性のソフト的要素です。地域の住民が、その地域に主体的に関わろうとする意識を持つことが、地域の監視性の向上につながります。
学校であれば教職員が学校の安全にかかわる意識を持つことが、当事者意識です。
清掃運動、一戸一灯運動、花壇づくり運動、ボランティア活動、あいさつ運動などが盛んに行われている地域では、当事者意識の強さと地域や住民の互いへの関心が感じられます。
あいさつ運動をする子どもや見知らぬ人に挨拶をされると、犯罪者は行動を見張られるように感じます。
夜間に玄関灯や門灯を点灯して住宅街を照らす一戸一灯運動は、地域住民の互いへの関心や当事者意識を示します。
花壇づくり運動も、地域の美化や植物の育成によって当事者意識を表します。
当事者意識の高い場所では、誰かに見られているかも知れないという意識を犯罪者は抱きます。
犯罪が起りやすい条件の診断基準は領域性と監視性となり、地域安全マップづくりは領域性・監視性の視点から自分の住んでいる町を点検し、犯罪に弱い場所を洗い出します。
抵抗性については、家庭や学校、地域での安全指導や防犯活動で安全への意識づけや子どもたちの心がまえなどを高めることで向上させることができます。
抵抗性のソフト的要素は、安全指導や防犯活動の管理意識です。
抵抗性のハード的要素は鍵や防犯ブザーなどです
地域安全マップづくりを子どもたちが自ら行う中でも意識が高まり、抵抗性を向上させることができます。
犯罪抑止のため(犯罪抑止要素)には、「人や物」(標的)に着目する抵抗性、犯罪が起こりやすい「場所」に着目する領域性・監視性があり、そしてそれぞれにハード的要素・ソフト的要素が存在します。
これらのうち、ハード面を重視する考え方が「防犯環境設計」、ソフト面を重視する考え方が「われ窓理論」です。